清水南山展から 作品解説 その5(おわり) 北原千鹿《置物 兜》

南山は伝統的な彫金技術を「貴い技」と称してその錬磨と伝承に生涯を捧げましたが、明治・大正・昭和と近代化と国際化が急激に進展する時代において、それはたやすいことではありませんでした。彫金を含む工芸界は日本古来の意匠・技法を重視する伝統派と西洋美術思潮に影響された革新派が対立し、革新派が伸長する趨勢にありました。そんな中、彫金における伝統派の代表が清水南山であったのに対して、革新派の代表は北原千鹿でした。

北原千鹿の昭和4年第10回帝展の出品作《置物 兜》は中でも卓越した革新性を示すものとして、次のとおり当時の展覧会評で絶賛されました。

「物の実相を象らない、いはば象徴的なもので、或る金属材料の硬さ、色、肌、光沢等の特殊性を自由に駆使することによって自分の感覚をそれによってのみ端的に表現しようと試みたものであるらしい。…かうした象徴的作品は当然出なければならぬことになる、といふ事だけを言って置かう。とにかく今日の工芸美術にはユニイクなものとして特筆すべき作品だ」(高村豊周)

「何の置物ですかと十人が十人とも云ふだらう。然し彼の直線と曲線の調和的配合と其板金細工で少しも薄ぺらに見へない堂々たる不動の感をせしむる点又其置物として単に何の置物と名称の付けない所が北原君の創作的権威にして、総ての金工出品中あの品の如く作家それ自身の見識を遠慮なく表出した品は無いと思った」(田雑五郎)

「伝統とは形式の摸倣ではない」と伝統派ながら開明的考え方の南山は「芸術的方面に於ける北原氏は研究の人であり観察の人でありまた進展の人であることは多年諸展覧会等に出陳せられつゝある光彩ある氏の作品が吾人の喋々を待たずして最も雄弁に物語って居ることゝ信じます」と語っています。一方,北原も南山の作品について「立派な完成品として存在して何等異議をさしはさむ余地はない。…金工の権威、現審査員の作として場中に燦然として輝いている。…見れば見る程何物かゞ迫って来る、力、力、他に何ものも説明を要しない」とその完成度に最大の敬意を表しています。新旧の立場を超えた信頼関係が両者に存在していたものと思われます。

奇しくも「北原千鹿展」が来る2月21日から高松市美術館で開催されます。清水南山展に続き、日本彫金の近現代史を辿るまたとない好機であると考えます。

北原千鹿《置物 兜》昭和4年頃 径19.0×高16.8㎝ 鍛造・青銅・彫金 京都国立近代美術館

彫金家 清水南山 -広島が生んだ近代金工の巨匠
1月6日(金)~2月12日(日)

リニューアル・オープン20周年記念
「続・広島県立美術館ベストセレクション展」
「平成27年度新収蔵品ご紹介!」
12月22日(木)~4月16日

miyamoto の紹介

学芸員 宮本真希子

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