美術館の裏側The back of the Museum Art

美術館の裏側


磯江毅展、開幕しました。 今回は開幕前を振り返って展示作業のご紹介です。

展覧会の準備で、なんだかんだと作業していると、まだまだ先と思っていた開幕日が、あっという間にやってきてしまいました。

実のところ、展覧会の準備には色々な仕事があって、外からは見えにくい苦労もあるのですが、その中にあって、展示作業は多くの学芸員が楽しいと感じる仕事ではないでしょうか。何しろ、作品を間近に見ることができますからね。

と言いながら、私の場合、現実に作品をゆっくり観ていられたことはないのですが・・・・・。

 もちろん、輸送に伴う事故がなかったか?など、様々な確認を伴う作業ですから、長い時間をかけて、しっかりと作品を点検します。そういう意味ではもちろん、しっかり見ているのですが、私の場合、仕事の時には作品を味わう余裕が無いというべきでしょうかね。

作品の点検では本当に細部まで観察します。なので、「この作品の額下にはキズがある」とか、「どこに汚れが付いている」とか、そんなことは覚えているのですが、作品そのものの印象が心に残りにくいのです。

 そんなわけで、展覧会の会期が終わる直前になって慌てて展示を見に事務所を飛び出すこともしばしば。最終日に気がついて、滑り込むことさえあるのです。

自分が担当した展覧会もゆっくり見ることができないなんて本末転倒も甚だしいとは思うのですが、紺屋の白袴、医者の不養生、なんて言葉が即座に幾つも思い浮かぶくらいですから、この仕事に限ったことではないのかもしれません。

今回こそは展示作業を終えたら休暇をとって、しっかり作品と対話することにしましょう。

さて、今回はそんな展示作業の中から、展示をスムーズに進めるための工夫などをご紹介しようと思います。 

限られた時間で確実に展示を終えるため、展示室では作品の配置予定位置に、作品の番号札を貼っておきます。

 
 

展示作品の受け入れを前に、準備を終えた展示室です。

作品を展示室に運び込む通路の分岐点には、どの作品がどの部屋に行くかを書き出して誘導します。 

 

作品を展示室に運び込む通路の壁です。

 

作品の誘導表示

 

私たちは「作品を撒く」と呼んでいますが、作品を展示予定位置に配置していきます。 

作品撒き

配置が終わったら、いよいよ開梱です。

配置が終われば開梱です。これはガラステープと呼ばれる作品保護用のフィルムを剥がしているところです。

 

これは作品のガラス面にガラステープと呼ばれる保護フィルムが貼られているのを剥がすところです。このテープを貼るのは、万一事故が起きた場合など、ガラスが割れて画面に降り注いだり、刺さったりすることを防ぐためです。結構面倒くさいのですが、ガラスの入った作品を輸送するときは必ず行う作業です。

とはいえ、毎回、貼って送り出して、受け取って剥がすだけ。今だかつてその効果を目撃したことはないのですが・・・。まあ、それは幸せなことですよね。無事故で過ごせていると言うことですから。一見、無駄な御作法のようにも見えますが、いわば保険のようなものですからおろそかにはできません。 

 

画面が見えてきました。 

こんな風にして、全ての作品を開梱します。  

さあ、剥き終わりました。壮観ですね。

さて、開梱が終わりました。

こうして作品が並ぶと、さすがに壮観ですね。

しかし、これはあくまでも展示プランに沿って並べただけのこと。

これから作品同士の相性や壁との関係など、実際に作品が並んでみないと確認できないことを勘案しながら、並び順を組み替え、作品同士がその魅力を十全に発揮できるよう調整していきます。

地震対策の意味も含めて、開梱した約100点、全て壁に掛けるところまでは、その日のうちに済まさなければいけません。

何しろ、作品を壁に立て掛けたまま帰って、夜の間に地震が来たりしたら取り返しが付きませんからね。

こうした作業の区切りをどこに設定するかも、展示作業のポイントになっているのです。

さて、今回の記事はいかがだったでしょうか。テープカットの記事の次ぎに展示作業の記事なんて、なんだか順番が変だナー。と思われた方も多いのではないかと思います。

実は今回の記事、開幕前に展示作業をしながら書いていたのですが、結局、書き終わる前に開幕を迎えてしまいました。そのため置き去りになっていたのですが、せっかく準備したので公開させてもらうことにしました。申し訳ありません。

というわけで、いよいよ次回からは磯江作品の魅力、この展覧会ならではの魅力などもお伝えしていきたいと思います。

お楽しみに。

スペイン・ リアリズム絵画の異才 磯江毅 ―広島への遺言―展
3月25日(水) ~2015年5月24日(日)

展示のための照明 今回はスポット・ライトのLED化です。

当館でも頻繁に使うスポットライト、エルコのEXシリーズです

 

これからご紹介するお話、実は昨年の「ウクライナの至宝」展を準備しているときに用意したものです。ところが当時の私の能力では、このブログへの動画の貼り付け方が解らず諦めたのです。何しろ展覧会の準備だけで”てんやわんや”なのに、ブログの使い方を”ああでもないこうでもない”と悩んでいる訳にはいきませんからね。

そんなこんなで、以後、動画の投稿は出来ないものと思い込んでいたのですが、先日その話をしていると、山下学芸員が携帯電話から動画をUPして見せてくれました。「できるんだ〜!!」と、皆んな驚いた訳ですが、さすがは山下さん、若手のホープだけあってITもバッチリ。それにひきかえ、私などは電子ものはサッパリです。しかし、そこで諦めてしまっては益々老け込んでしまうというもの。早速動画の入ったブログに挑戦です。

前置きが長くなってしまいましたが、今日は照明のお話です。照明は本当に難しいもので、我々が一生懸命考えた照明も沢山の方から非難を受けることが少なくありません。特に多い苦情は「ガラスが光って作品がよく見えない」と、「会場が暗くて解説が読みにくい」です。また非難が集まる作品には傾向があって、概ね特別展で他館からお借りした作品。それも、個人所蔵の作品や海外の美術館が所蔵する作品が圧倒的に多いのです。この理由は簡単で、画面保護のために入れられているガラスやアクリル板が古い時代のものなのです。作品を大事にしたいと考える人にとって、画面に保護用のガラスやアクリルを入れるということは当然のことです。

極端な話、画面に直接触ろうとするお客様もいらっしゃいますし、画面の前でクシャミをされる方もあります。そうでなくても空気に含まれる埃などが温度や湿度の変化に伴ってガラス面に付着していきます。もちろんガラス面の清掃はしていますが、ガラスやアクリルも永久不変という訳にはいきません。経年劣化と呼びますが徐々に透明度が失われていくのです。早くから作品保護に取り組んだ歴史のある美術館や、何台も続く個人コレクターの作品にこうした傾向があることは、ある意味、当然の結果とも言えるでしょう。

一方、ガラスやアクリルの製造精度は現在、飛躍的に高度なものになっています。例えば古い時代のガラスは、一般的にガラスそのものの色が強く、硝子越しだと風景が緑色に見えることを経験された方も多いのではないでしょうか。最近の美術館ではミュージアム・グラスなどと呼ばれ、鑑賞の妨げにならないほど色の影響を抑えたガラスが使われるようになっていますし、低反射ガラスと呼ばれる反射や写り込みが起こりにくいガラスを使うことも多くなっています。

とはいえ、歴史のある美術館や何代も続くコレクターの方などは、ガラスやアクリル板なども作品に付随する資料と考えたり、先代の趣味を尊重したりと、最新のものに交換しない、あるいは交換できない場合も多々あるのです。展覧会場で「画面が光ってよく見えない」とか「ガラスが汚い」などのご指適をうける作品の多くが、こうした「オリジナル」のガラスやアクリルの付いた作品なのです。いくら我々がその問題を何とかしたいと思っていても、他館の所蔵品に口出しはできません。そうすると残る手段は照明でカバーすることだけです。

しかしこれが本当に難しい。一つには建物の問題があります。天井の何処にでも自由に照明を取り付けられるなら、それほどの苦労はありません。しかし、実際には、天井に何列か取り付けられたレールにしか照明器具を付けることはできないのです。一番反射の少ない位置にスポットを取り付けようと思っても、そこにレールが無いこともしばしばですし、動線も意識しなければいけません。動線というのは、この場合お客様の進行方向ですね。画面が光らない向きにこだわりすぎると、進んできたお客様の正面にスポットが光っているということになりかねません。こうしたスポットの光が目に入ってしまうと、しばらくは目の中に残像が残って鑑賞どころではなくなってしまうでしょう。

他にも、展示室全体の明るさを考えることもあります。例えば、展示室が全体的に暗くなっている場合など、作品保護や雰囲気作りのためだけでなく、「背後の壁に掛けてある作品が反射して写り込むのを防ぐため」というのが本当の理由の場合もあるのです。

多くの方から「勉強不足」だとお叱りを受けることの多い展示室の照明。我々の力不足は否めません。しかし、実は他館の照明なども研究し、可能な限り様々な工夫を凝らしているということは知って頂きたいと思い、今回はその一端をご紹介させて頂くことにしました。

さて今回、力を入れてご紹介するのはスポットライトのLED化です。このスポットライト、当館に導入した当時は業界の最先端。「世界最高水準の照明効果」と評価の高かったものです。実際、大変有用な機材として活躍しましたが、導入して既に10年以上。この種のものも日進月歩で、変化するときはドカンと変わってしまいます。本当は予算措置をして、照明器具を現代的なものに更新するべきなのですが、景気低迷の昨今、公立美術館で設備の更新を行うというのは簡単なことではありません。そこで今回はその「繋ぎ」の方法を考えたのです。

実は、考えたのは私ではありません。ある人から「こうした手法があるよ」と教えてもらったのです。この手法に注目したのには3つの理由がありました。第1に、現在所有しているスポットライトを無駄にしないですむ。第2にLEDは発熱量が少ないためケース内での使用が可能になる。第3に球切れの心配が少ない。ということです。

まず第1点ですが、新しい機材を購入する余裕がないことも事実ですが、今ある機材を大事にしたいという気持ちも本当です。「使えるなら使ってあげたい」と思っていたので「良かった〜」という気持ちが湧きましたね。

そして第2の熱が出ないことも大事。今まで展示ケース内の展示には、スポットライトを使うことが殆どなかったのです。というのも、今までのスポットライトは、大きさこそ小さいものの裸電球と同じで、光だけでなく熱も発するハロゲン球が入っていました。特にハロゲンの場合、点灯してほんの数秒で触れないほど熱くなります。しかし、美術館での展示環境は、一年を通じて温度は22℃、湿度55パーセントを守ることで作品を保護しているのです。そんな中、小さな密閉空間である展示ケース内に熱源になるスポットライトを入れることは自殺行為としか言いようがありません。ところが、このLED、殆ど熱を出しません。実際には電圧調整や、様々な制御回路から熱は出るのですが、裸電球に比べれば皆無と言っても差し支えありません。

また3点目の球切れの可能性が殆ど無いことも重要です。裸電球の場合、その寿命はハッキリ言って運まかせ。昨日換えても今日切れる短命なものもあれば、開館当時から一度も換えていないものまで、本当にバラツキがあるのです。それなのに、スポットライトの球を交換するには、天井に取り付けた器具を直接分解する必要がありますが、天井の高さが4.5メートルもある美術館の場合、4メートル近い高さの脚立か足場を運び込む必要があるのです。当然、十分なスペースが必要になります。特に入り組んだ展示の場合やケース内の球換えだと、安全を確保するために、展示作品を動かさなくてはいけなくなります。これはなんとしても避けたいことです。というのは、面倒だから避けたいのではありません。作品にかかるリスクの問題なのです。動かす回数が増えれば、それだけ事故が起こる可能性も増えます。予見できるリスクであれば最大限の努力を払って回避するのが私たちの仕事。そのため、今まではそうした展示は避けざるを得なかった訳です。しかし、LEDであれば、球切れの可能性は皆無に等しい。展示の可能性が飛躍的に高まります。

そんな訳で、「ウクライナの至宝」展ではウオールケース(壁面作り付けのガラスケース)内にもLEDに交換したスポット・ライトを設置して、黄金製品のキラキラ感を演出することができたのです。効果としては・・・・まあ、悪くはなかったのではないでしょうか。

当館でも使用頻度の高いエルコのEXシリーズというスポットライトです。本体は共有ですがヘッドのタイプはスポット、フロッド、ウオールウオッシュなど様々なものがあります。当館では主に90mmと125mmのスポットライトを使用していて、125mmのヘッドでは100w、90mmのヘッドには50wの電球を使います。これは小さめのヘッドで90mmです。

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拡散用のレンズを紹介しています。

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色温度調整用の青レンズを紹介しています。ハロゲン・ランプはいわば電球なので光にも独特の赤みがあります。光の色は色温度(単位はカルビン温度:°k)という尺度で表現されますが、お昼間の太陽から照射される光がだいたい5000°kハロゲンランプは3,200〜3,800°k。蛍光灯はだいたい5,000〜6,000°kなので併用すると光が青かったり赤かったりと斑になってしまいます。そのため、色温度調整用のレンズを使って相対的な赤みを取ってあげているのです。この青レンズ1枚入れただけで、色温度は大体4,000°kまで上昇します。目に付かない部品ですが大きな役割を果たしていた訳です。

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紫外線と赤外線を除去するためのフィルターです。

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スポットライトとはいえ、このヘッドの中に入っていたのは拡散用のリフレクターでした。

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いよいよ分解開始。まず電球の破裂に備えた飛散防止用のレンズを取り外します。

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リフレクターを固定しているクリップを抜きます。

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リフレクターも不要なので抜き取ります。

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スッカラカンになったスポットライトのヘッド部分です。

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代わりに入れるLEDランプ。照射角は36°、色温度は4,000°kです。

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小さいような大きいような微妙な大きさです。一見大きくも感じるのですが、よく見ると小さなLEDが四つも並んでいます。しかも、この中には制御回路の冷却用ファンまで内蔵されている優れもの。用途に応じて照射角や色温度も選べますし、本体のボリュームスイッチで明るさの調整も可能です。

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さあ、完成です。これがどんな光を発しているか?ご興味をお持ちになった方は、展示室でお探しになってみてください。こんな小さな機械から、こんなに強い光が出るなんて驚かれるのではないでしょうか。

ただ、結構まぶしいので、もしも確認されるなら展示を見終わってから挑戦されることをおすすめします。

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今回用意したフィリップス製のLEDは40w相当だそうですが、見た目の効果は50wと100wの中間くらいの感じで、展示効果には全く遜色ありません。

 

同業者の皆様。もしかしてなにかのご参考にでもなれば幸いなのですが、この方法には既に解っている「穴」が1点あります。それは、エルコEXシリーズの本体に大きく分けて新旧2タイプ有ることに起因します。旧式の本体(調光ダイヤルが大きくてパイロットランプが赤色LEDむき出しのタイプ)はこの方法で問題有りませんが、新型(調光ダイヤルが小さくてパイロットランプがリング状のカバーで覆われた格好いい方)はデジタル回路の相性が良くないようで、継続的に点灯することが出来ません。もしも導入を検討される場合は十分ご注意ください。

 

 

今年最後の大冒険?畑薙湖へ行ってみました。

みなさま 明けましておめでとうございます

 

一応 まだ 松の内 ということで 遅ればせながら 新年のご挨拶をさせていただきます

旧年中は私のブログもご愛顧頂きありがとうございました

 

さて、新年のご挨拶も済ませたところで、ここからは普通の書き方で失礼させて頂きます。

私の昨年のブログは、こちらでの仕事に不慣れなせいか日常業務に追われ、記事の内容とアップロードするまでの間に時間が掛かりすぎました。その結果、何だか賞味期限ぎりぎりの食品みたいな記事が多くなってしまいました。

そうした反省を踏まえ、今年からはリアルタイムのブログを目指すぞ!!と意気込んだのですが、新年最初の投稿からして何だか賞味期限切れっぽい感じになってしまいました。何しろ、「今年最後の大冒険?」なんて見出しになっています。実は昨年の暮れに用意していた記事なのですが年の瀬のバタバタに取り紛れてアップロードできずにおりました。

まあ、そういう意味では、昨年最後のブログですから、「今年からはリアルタイムで」も、まだ破られていないともとれなくもない? いや、取りにくい でしょうねぇ~?!

さて、その年の瀬に差し掛かる頃のお話です。

私にとって静岡へ来て初めての冬。まだよくわからないのですが、人の話では静岡の冬は暖かいといいます。
広島から来た私には、別段暖かくは感じられないのですが、関東の人にとって静岡は特に暖かく感じられる土地らしいのです。その理由の一つは雪が降らないことにあるようで、「静岡では、ここ10年、積もるような雪は降っていない」などといった声を聞きます。「いや、雪自体降らないですよ」という声さえ。

もうすぐ車検が切れることもあり、雪や凍結に備えて早々とバイクを広島に持って(乗って)帰った私。4月からの(広島での)通勤に間に合うように「春を待って車検に出せばいいや」と思っていたのですが、この話を聞いて「何?! そんなことなら静岡で車検をとったのに!!」と、やや悔しい気持ち。まあ実際には、3月後半だとまだ、鈴鹿峠とか関ヶ原とか、車で走っても凍結が心配な道が残っていますから、バイクに乗って広島まで帰るのは無謀な話。年内にバイクを広島へ運んだのは正しい選択だったのでしょう(ちょっと負け惜しみが入っていますね)。

というわけで、今回の小旅行はバイクではなく自動車の旅です。

「え、公共交通機関でも良いじゃない」と、思われる方もあると思うのですが、実は、今回の行き先、以前あったバス路線が廃止されていて、すんなり辿り着けそうなルートが見つからず、いつものことながら、思いつきのお出かけでもあり、自家用車の旅になったというわけです。

で、どこへ出かけたかというと畑薙湖(はたなぎこ)という湖。小林和作が「山湖の秋」という作品を描いていますが、まったく同じ構図の素描に「畑薙湖」という題がついているので、この作品の取材地は畑薙湖で良いはずです。

(広島県立美術館のデータベースで画像も確認できます。ただ、著作権保護の関係で直接リンクを張れないのでご興味をお持ちの方はこちらから検索してみてください。)

調べてみると畑薙湖は相当郊外になりますが静岡市内。ちょっと気分転換に出かけてみようと思い立ったわけです。

で、畑薙湖、市内にあると書きましたが、住所は静岡市葵区となっています。
静岡に来たことのある人ならご存じと思いますが、葵区といえば静岡市の真ん中。JRの静岡駅も県庁も市役所もここにあります。

そんな「街」という先入観を持って出かけた私は、1時間後には大きな誤りに気付くのでした。天気があまり良くなかったせいもありますが、山が深い。峠に車を停めてみると、そこは既に「深山幽谷」の風情。

 

 

市街地を離れて間もなくの峠道。寸又峡温泉もここからは近いはず。

 

 

既に「深山幽谷」の風情があります。しかし、この風景を見たときには、間もなく到着するかと思っていたのですけど・・・・・。ここはまだ出発点のようなところでした。

 

ところがここはまだほんの入り口でした。走っているのはれっきとした県道ばかりなのですが、離合できる場所も限られているような道ばかりが延々と続きます。曲がりくねった道が多いので対向車と正面衝突しないように、気を付けて進まなければいけません。

道の険しさばかり話すと、いつもと同じじゃないかと思われそうなので、今回は道の話は端折ますが、ともあれ、思わぬ長旅になってしまいました。

でもまあ、綺麗なところです。紅葉の季節だともっと綺麗なのでしょうね。大井川の水はエメラルドグリーン系の綺麗な緑色ですから、周囲の赤系色がとても引き立ちます。この水の色、周辺には温泉も多いのですが、温泉のせいではありません。もちろん入浴剤を入れたわけでもありません。

 

大井川の流れ。この日は雨が降ったりやんだりで、いつもよりもやや濁り気味ですが、結構ミドリが綺麗です。

 

私には、未だに良く理解できないのですが、ダムの資料館にあった説明板によると、おおむね以下のような説明が・・・・。

純粋な水は、無色透明ですが、微粒子を含まない水というものは、自然界にはほとんど存在していません。で、水の中に微粒子が存在すると、チンダル現象によって青みがかって見える(空や海が青く見えることのように)のだそうです。

さらに、相乗的?な要素として

水中では、波長の長い赤色は吸収され、波長の短い青色や紺色は吸収されにくいため、深くまで届き、その結果、水が青く着色されたように見えます。具体的な数字を交えると、赤い光は水深1mで50%も低減しますが青い光が同じ50%まで低減するのは、なんと水深100mだというのです。確かに青い光が有利ですね。

で、肝心のチンダル現象ってどんなこと?と読み進めたのですが・・・・。

「普通、水の色は、水に溶け込んでいる浮遊物や懸濁物の色によって決まります。褐色の浮遊物が懸濁していると、川の水は褐色を呈します。しかし、浮遊物がなにも無いと、光は水の中を直進していきます。そして、それが蒸留水のような真水だと、川底がそのまま見えるだけです。でも、わずかな微粒子が溶け込んでいる水の場合には、波長の長い赤色光は吸収されますが、波長の短い光だけが散乱光となって水の中から青色光を反射します。これが、チンダル現象です。」

となっていて、さっきの説明の繰り返しのようです。

しかも、これでは結局、なぜこの辺りの水だけが青く見えるのかという疑問の答えにはなっていないような・・・・。だって、ここ以外にも綺麗な川が沢山ありますし、水質もそれほど違うように思えない川もありますが、こんなに青く見える川はあまり見かけませんものね。何が違うのだろう?

 

ここはずっと上流ですね。水が少なくなっても緑色です。

 

 

え、蒸気機関車が当たり前のように走っています。そう、大井川ですからね!!蒸気機関車で有名な大井川鉄道です。

 

 

目的から脱線してしまうのはいつもの私の悪い癖。というわけで、蒸気機関車を追っかけて近くの駅舎に入ってみました。まだあるんですね、こんな風情のある駅。

 

 

ホームで乗降待ちをしている機関車を見つけました。とても普通の風景に見えるから不思議です。

 

ともあれ、碧い川の謎を残したまま、その碧い川に沿ってひたすら走りました。しかも道を間違えて、一区間くらい、今はあまり使われていないような旧道を走ってしまったせいもあるのですが、とにかく道が狭い。そして落石が多い。

時々、崩落防止用に張られたネットの中を、カーンカーンと音を立てて石が降ってきます。

 

この辺はまだ見通しがきくから走りやすいのですが、道幅がここより広くなることはほとんどありませんでした。道に落ちているのは比較的新しい落石ですね。

今回見た落石の中では小さな方ですが、近づいてみれば結構な大きさ。漬け物石くらいあるものも混ざっています。


しかも、道路のあちこちには融けかけの雪がちらほら。

 

これはもう少し上流ですが、せせらぎが凍り付いているところさえあります。本当に路面凍結の心配をしないといけません。

 

道の真ん中にも結構大きな石が落ちているのですが、路肩に寄せられた石はそんなものじゃない。当たったら車ごと谷から弾き出されてしまいます。実際ガードレールが何カ所かダンプがぶつかったように薙ぎ倒されていました(ダンプはさすがにこの道へは入ってこれませんが・・・・・・)。しかも雪。まだ私の車は夏タイヤのままなのに・・・。道路は雪でジャグジャグになっています。まあ、完全に凍結していないだけましですが、ますます警戒しなければなりません。

 

沢なんかもこの通り。もうじき流れも止まりそうです。

 

 

谷筋だから一層冷え込むのでしょうか。橋ですからね。「行きはよいよい帰りは怖い」って歌通りです。

 

思わず、「何が静岡は温かいだ! 市内でもこんなに雪が降ってるじゃないか!!」と思った訳ですが、まあ、相当登っていますからね。仕方ないのでしょう。

さて、ダムの多い土地です。今度こそ畑薙湖と思うたびに違う名前が出てきます。

今回は大井川鉄道の千頭(せんず)駅の辺りから登りはじめたので、まず長島ダムです。長島ダムなので長島湖かと思えばさにあらず、接岨湖でした。温泉で有名な接岨峡(せっそきょう)にちなんだのでしょうね。

しばらく走ってまた大きな湖が見えてきました。が、今度は井川ダム。湖は井川湖です。

 

井川湖です。小林和作の絵と雰囲気が似ているので、この辺りからところどころで写真を撮っていきます。でも、本当に翠の湖水なんですね。和作は「美しさは自然の中にある。画家はそれを切り取るだけ」といっていますが、さすがにこの色はちょっと創作かなと思っていたのですが・・・。和作様、ごめんなさい。

 

 

見事な景色ですよね。

 

 

と思っていると、湖に滑り落ちたプレハブが・・・・。誰もまったく気にしていないように見えたことの方がビックリではありましたが・・・・。


更にしばらく走ると、少し古びたダムが見えてきます。これが畑薙第2ダム。この湖には名前がありません。更に進むと畑薙第1ダムが見えてきます。これは大きい。で、これを登り切ると畑薙湖です。で、畑薙第一ダムから落ちた水は畑薙第2ダムに蓄えられ、電力の余裕がある時間帯に畑薙湖へくみ上げられ、循環させられているとのことで、いわゆる揚水発電所ですね。そこで思いついたのが畑薙第2ダムの湖に名前がないのは畑薙第一ダムの下池と定義されているからかもしれないということ(確認をしたわけではないので想像の域を出ませんが・・・・)。

 

 

さあ、見えてきました。畑薙第一ダムです。

 

 

さすがに大きいですね。このダム、重力式中空コンクリートダムという分類だそうで、この種類では世界最大のダムだとか。他にも沢山の特徴があって、ダムマニアにとっては何時かは訪れたい聖地なんだとか。

 

 

ダムの堤防から下を覗いてみます。さすがに高いですね。落差は約130メートルくらいだったかな。

 

 

で、堤防の反対側が畑薙湖です。やったー。やっと見つけました、この文字。

 

 

堤防を渡るとこんな看板が・・・。この時はあまり気にかけていなかったのです。

 

さて、畑薙湖。行ってびっくり、見てびっくり。なんとダムを過ぎてしばらくすると、道の真ん中に遮断機が・・・。

 

道の真ん中にロープが張られています。

 

 

おまけに遮断機まで。道は終わりのようです。それにしても警戒厳重ですね。


 

とはいえ、車でなければ入っても問題ない様子。

 

 

しかし、車から降りると「熊出没注意」の看板が妙に重たく見えます。

 

県道60号線はここが終点です。そしてなんと看板には、「県道60号線起点」と書かれています。まあ、これは大した問題ではありません。起点も終点も同じことです。問題なのはこの看板の裏側の文字「ようこそ南アルプスへ」って、ここはアルプスですか?!

 

おしゃれなゲートがあります。

 

 

なんて書いてあるのかな?

 

 

南アルプス公園線?

 

 

「ようこそ南アルプスへ」って、おい!!

 

 

確かに葵区と記されています。

 

とはいえ、車でなければ入っても問題ない様子。

 

某酒造メーカーさんが売っている南アルプスの天然水ってこの辺の水ですか?

いやいや、驚きました。

 

こんな看板もあります。

 

 

そういえば、さっき見た看板も似たようなデザインでしたが・・・・。確かに書いてありますね、アルプス。しかも「引き返す勇気はありますか」って、かなり危険な匂いがします。

 

遮断機の向こうには、昔、山登りをしていた頃に見慣れた風景が・・・。登山計画を記入して投函するポストや、登山者に安全のための注意喚起する看板。まさに登山口です。いわく「引き返す勇気はありますか?」って、確かに大事な覚悟ですが、ちょっと覗きに来ただけの私には関係のない覚悟がいっぱいです。

が、もう一つの看板はちょっと迫ってくるものがありましたね。

 

確かに県道60号線。

 

 

「熊 出没注意」ですよ。「北海道かここは?!」って感じです。

 

 

熊出没注意の裏側です。この手書き文字も、結構ぐっと来るものがあります。

 

「熊出没注意」って、北海道か?!ここは!!って感じです。

しかし、しばらく歩いていると、林の中を雷鳥?いやいやライチョウが生息するには低すぎるので雉だったのでしょう、私からは手が届かないくらいのところまでバサバサーっと10歩分くらい後ずさります。脅かさないように知らん振りをして先へ進むと、今度は小動物、兎だったのだろうと思いますが、山の斜面を慌てるでもなく逃げていきます。動物いっぱい。これなら熊くらい出てきてもおかしくはないのかもしれません。

が、熊のことなど気にならないくらい素晴らしい景色です。

湖越しに聳える山々。この辺りで育った人たちはそれほど感じないかもしれませんが、広島で生まれ育った私にとってはとても新鮮です。ほとんど「アルプスの少女ハイジ」の山の上の湖(原作には無いんでしたっけ)というのを思い出すくらい、すがすがしい光景です。

 

堤防の直近は流木でいっぱいですね。が、湖水の向こうに広がる山々は実に雄大で見応えがあります。

 

 

説明はいらないですよね。

 

 

刻々と変化していきます。

 

 

水面が少なくても絵になりますね。

 

 

本当は冠雪した峰嶺が見えているはずなのですが・・・・。

 

 

幽玄というのはこんな感じなのでしょうか?ちょっと、自分が撮った写真のような気がしないですね

 

さて、和作が描いたのはどの辺だろうかと、湖畔を廻って湖の形と背景になる山の組み合わせを探します。場所を変えながら写真を撮っているとあっと言う間に時間が経ってしまいます。しかも日が陰ってきます。まだ3時なのに、やはり山深いところでは暗くなるのが早いのですね。

そんなわけで、ほんの数時間を過ごしただけですが、ここはとても気に入りました。

写真には上手く写らないのですが、本当は南アルプスらしい、冠雪を頂いて見事に切り立った山々も見えていました。出かけたついでにパッパと撮った写真では、ちょっと再現できないですね。

白籏史朗さんなんかだと、さすがにバッチリとっちゃうのでしょうが・・・。

もちろんプロの撮影は準備も周到ですからね。私がちょっと写真を撮るというのとは、気合いも含め様々なことが根本的に違うのだろうと思います。というか、「比べるな!!」と怒られそうですね。

いやいや、日帰りとはいえ、思いのほか命がけの冒険になってしまいました。

期せずして、静岡が広いのは県だけではなくて、市も広い。暖かい静岡にも寒いところはあるという体験談となったわけです。

しかし、この絶景とすがすがしさには格別なものを感じました。

広島に帰るまでに、是非もう一度来ようと思いつつ、「春にはまだ雪が溶けてないだろうナー? 本当に来れるかナー?!」と、ちょっと不安要素の大きな予定ができたのでした。

冬タイヤとチェーンを用意しなくっちゃ!!

 

では 本年もまた ご愛読の程 よろしくお願いします